【天才美少女探偵 ウェルチ・ビンヤードの事件簿】

Written by  dry-ice 地雷エイスケ 2018/4/15

イセリアルゲート3 パンフレット投稿企画「イセゲ創作会」 テーマ「神」「星」「料理」


 

「お、お菓子の隠しぃ!?」

 

ウェルチ・ビンヤードの喧しい叫びに艦長は思わず両の耳を塞いだ。

 

「やかましいぞ、クソ虫」

 

アルベル・ノックスが修練後の糖分補給にと楽しみに取っておいた

「チョコバナナクッキーDXエディション」が皿の上から忽然と消えたというのだ。

 

「ふっふっふ……そういうことなら天才美少女探偵ウェルチちゃんの出番ねっ!

 
 ホシを必ず、あげてみせるわ!」

 

盗人は誰だと殺気立つ被害者アルベルを他所にウェルチは高々と「指し棒いや〜ん改」を

掲げるやいなや、現場の捜査を開始した。が、音を上げるまで、さしたる時間は必要なかった。

 

「こうも証拠がないんじゃ、お手上げね……

 ここは誰かお菓子に詳しそうな助手はいないかしら……いたーーっ!」

 

探偵の背後で気配を消しての素通りを試みていたミキ・ソーヴェスタの眼前に、黄金の指し棒が突き立った。

 

「助手2号♪あたしの捜査手伝ってくれるよね?」

 

「う、うん……いいよ」

 

こうして第二の被害者が誕生した。

 

 

~~

 

 

「何の用?お昼寝のジャマしないでほしいミャ……」

 

しなやかな体躯をくねらせ、あくび混じりにやってきた

メリクル・シャムロットは急ごしらえの「取り調べ室」の椅子に腰かけた。

 

「メリクル……アンタ、マエがあるんでしょ?正直に吐いちゃいなさいよー」

 

「ちょっとウェルチ、そんな物騒な言い方しなくても……」

 

慌てる助手ミキだが「メリクル容疑者」は意に介さない様子で供述した。

 

「マエ?朝飯前なら昼寝をしてたよ!」

 

彼女も空気の読めなさ度なら自称天才美少女探偵に負けてはいない。

 

「しらばっくれちゃって……まあ、時間ならたっぷりあるわ。

 あたしがじーっくりお話きいてあ・げ・る」

 

童●を殺しそうな嬌声で囁くウェルチは、メリクルの額を人差し指で小突いた。

 

「ええーっ、これからおやつの時間なのに、おなか空いたミャ」

 

「うぇえっ!?」

 

メリクルが眉根を寄せた一瞬の出来事であった。猫耳の少女は小さなシャム猫に変幻していた。

猫の額を指差したままウェルチは硬直する他なかった。

 

「ミャミャーッ!」

 

脱兎、いや、脱猫と称するに相応しくシャム猫メリクルはウェルチの腕と頭を伝い、

積荷を駆け上り、通気口へと飛び込む。その間、わずか数秒。最有力だった容疑者が姿を消した。

 

「参ったわね……でも、これからおやつなら犯人の線としては薄いわね。

 ねえ助手2号、他に犯人の目星とかないわけ?」

 

頭を掻くウェルチにミキはおずおずと助言した。

 

「やっぱり……メリクルちゃんみたいに食べるのが好きな人……じゃないかな」

 

「グフフ……そういうことね、完全に理解したわッ!

 

ウェルチはにんまりとしてうなずいた。

 

 

~~

 

 

5分後、「取調室」こと艦内の資材倉庫は嘗てない閉塞感に支配されていた。

 

「あんた、自分が何やったかわかってるの?」

 

「知らん」

 

「ちょっと……いつまで黙ってる気?艦内きっての大食いっていったら、

 もうあんたしかいないでしょ?いい加減にゲロっちゃいなさいよー」

 

「ふん、貴様の道楽に付き合う義理などない」

 

容疑者として疑われているにも関わらず、シマダは尊大な態度を改める気もなくふんぞり返っていた。

狭い倉庫内でシマダの巨体から発せられる熱気と詳しく形容したくないオーラを耐え続けるのは、

うら若き二人の乙女には酷な仕打ちであった。シマダ容疑者の黙秘はそれから悠に1時間を超えた。

 

「こうなったら、奥の手ね。必殺技を使うわ」

 

「必殺だと……小癪な」

 

自称天才美少女探偵は不敵な笑みを浮かべると指し棒を構えて深呼吸した。

 

「ニーベルン……わかっとんのかー!!」

 

シマダの眼前に百烈の槍が如く、指し棒が迫った。

 

「この、腹かっ!この腹が食ったんかー!」

 

探偵ウェルチのラッシュコンボはシマダの膨よかな腹にも襲いかかる。

 

「ふ、ふごぉっ!」

 

「仕上げよ!ミキ、カツ丼を持ってきて!!」

 

「え、ええーっ!?」

 

1時間前に理由もわからず作らされた、地球の総合栄養食「カツ丼」の用途をミキはここで知る。

右手に指し棒、左手に冷めきったカツ丼を携え、ウェルチの大技はフィニッシュを迎える。

 

「カツ丼、食えよーーー!!」

 

「ズッ!ズヴィズヴァッ!!」

 

冷めても美味しいミキちゃん特製カツ丼がシマダの胃袋と魂を満たしていく。

天使のように輝かしい笑顔でシマダは一言つぶやいた。

 

「わ、わたしがカツ丼です……」

 

「よおっし!」

 

「はぁ?」

 

あまりの美味さにカツ丼と同化してしまったシマダの姿にミキは言葉を失った。

 

「チッ、必殺技としては成功したけど、尋問としては失敗ね……

 さーて、次の容疑者を探さないと」

 

「えっ、まだ探すの……?」

 

「そうよ、ホシは絶対にこの艦の中にいるわ!

 

 あたしがこの謎を解くんだから。

 

 ……お父さんの名にかけて!

 

 バーロー!真実は、いつもだいたい1つ!」

 

 

「もうやめて!!」

 

ミキの悲痛な叫びにウェルチは身じろいだ。

 

「ど、どうしたのよ。助手2号」

 

「犯人は……わたしなの!わたしが、アルベルさんのクッキー……食べちゃったの……」

 

 

「な、なんですってええええ!!」

 

 

~~

 

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

 

自らの罪を告白したミキ・ソーヴェスタは膝から崩れ落ち、嗚咽を抑えきれずにいた。

 

「周りに誰もいなかったから、残りものだと思ったの……

  でも、そしたらアルベルさんが……わたし、怖くなっちゃって……

 だから同じクッキーを焼いて、こっそり戻そうって思ってたんだけど……」

 

「そこを、あたしに捕まったってことね……」

「うわぁーん!ごめんなさいいー!」

 

「ちょ、ちょっ!そんなに泣かないでよ!あたしに謝ることでもないでしょ!」

 

慌てふためくことしかできないウェルチにすがりつき、ミキはわんわんと泣き喚いた。

探偵の控えめな胸元に咎人の大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

 

~~

 

 

「……以上が事件の全容よ」

 

艦長室に集められた一同にウェルチはことのあらましを語った。

 

「まさか、探偵のウェルチさんの助手であるミキさんが犯人だったとは……」

 

報告を受けた艦長の足元でコロは悲しそうにアイセンサーを潤ませた。

 

「まずは甲斐より始めよ、犯人はヤス!って言うじゃない?

 要は灯台下暗しってヤツ。まあ、あたしはすぐに気づいたけどね

 

「ウェルチさん、珍妙な諺をでっち上げないでください」

 

「あれっ?犯人はヤスじゃなくて、たかあきだっけ?

 

「……話は終わりか?なら、俺はもう行くぞ」

 

漫才を始めた迷探偵とAIに痺れを切らしたのか、アルベルは憮然とした様子で部屋の出口へと向かった。

 

 

「あっ、待ってください!アルベルさん!」

 

 

ドアとアルベルの間に割って入ったのはミキであった。

 

「大事なクッキー食べちゃってごめんなさい!

 これ、たくさん焼き直したから受け取ってください」

 

 

 

「……ふん」

 

 

 

ミキが差し出した巨大でファンシーな包みを右手で鷲掴みにすると、

アルベルは一瞥もせずに艦長室を後にした。

自動ドアが閉まるとクッキーの香ばしい薫りが、ふわりと、鼻先を撫でた。

 

 

~~

 

 

アルベルが無言で去り、気まずい沈黙が艦長室を支配する。

 

「やっぱり、アルベルさん、怒ってますよね……?わたし、もっと謝らないと……」

 

肩を落とすミキにコロが声をかけた。

 

「怒ってなんかいないと思いますよ。アルベルさん、不器用なだけですから!」

 

「そうよそうよ!気になるなら、またヘソ出しプリンに

 差し入れでもしてあげれば、きっと喜ぶわよ、ウンウン」

 

「ヘソ出しプリン……あはは、そうだといいな」

 

ずっと泣きそうな顔をしていたミキにようやく笑顔が戻る。

 

「あー、緊張したからお腹空いちゃった!プリンでも食べようっと。

 ウェルチと艦長も食べる?」

 

「おっ、いいねー!」

 

「うう……皆さんとおやつの悦びを分かち合えないのはAIに生まれた最大の不幸!

 ミキさん、艦長の分は三種のバナナ乗せのプリンアラモードでお願いしますよ

 

「「あははははっ」」

 

こうして、お菓子の神隠し事件は落着を迎えた。

 

 

 

「わたしが、カツ丼だあああっ!」

 

 

……カツ丼になったままの、シマダを除いて。

 

 

【おわり】


※規定では「500文字以内」だったのですが、3000文字を超えました。

 二次創作ですので、ドイヒーな出来なのはご容赦ください。